瓢鯰亭日乗

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決定的瞬間と白黒写真の時代

 横浜美術館で「ローバート・キャパ/ゲルダ・タロー 二人の写真家」展を見てきた。今回の鑑賞目的はゲルダ・タローの写真である。戦場写真家としてのロバート・キャパは著名であるが、彼の出世の影に、ゲルダという彼のパートナーであった女性の存在とその戦場での死があることはあまり知られてこなかった。ロバート・キャパというペンネーム自体が、当初この2人の作品を共同で公表し売り込むための、架空の写真家だったのである。そして彼女は初めての女性戦場写真家であり、女性戦場写真家として最初の犠牲者にもなった。

 ゲルダの写真の感想については、もう少し自分なりに熟成させるとして、今回は見慣れたキャパの写真について語ろう。キャパの写真の特徴は、「現実の瞬間を切り取った一枚」という単なる写真ではないことだと思っている。その瞬間の前後に何があり、写真の登場人物達が感じている、怒りや苦しみ、喜びと不安が、写真を見ている我々にも伝わってくる・・・。つまり見る人を写真の現場に引き込む力があるのだ。

 これが報道写真の力である。

 価値ある写真については「決定的瞬間」と言う評価がされることが多い。これは、彼の同僚カルティエ・ブレッソンの写真集「逃げ去るイメージ」の米国での出版に際して付けられた表題なのだが、写真というメディアを代表する言葉となっている。この「決定的瞬間」という名称はブレッソンよりもキャパの写真にふさわしいと感じる。ブレッソンの写真はもっと優雅であり芸術的でフランス語の原題の方がよりふさわしいのだ。

 ところで、写真が上記のような力を持ち得たのは、実はキャパの生きた時代、わずか数十年の時代だけだったのではなかろうか。この時代は、白黒印刷の薄い写真雑誌が世界の今を表現するメディアであった。写真が白黒だから細かい情報は失われ、主題だけが明確になり、我々は自分達の経験から、短いキャプションをたよりに不足部分を補って鑑賞したのである。
 白黒写真は、俳句のような物である。選び抜いたデーターを少しだけ提供することで、各自が再生する世界が、大きく広がるのである。

 写真がカラーになり、動画になったとき、我々の想像力・共感力は失われたようだ。現代の写真に往年の力はない。写真は本文の説明であり、単なる証拠になっている。かって写真週刊誌を名乗ったフライデーなどの写真の扱いを見れば、いかに現代の写真の力が衰退しているかが判るだろう。

 ビジュアルの時代であり、技術も機器も進歩していることは間違いない。インターネットを通じて入手できる世界の情報の量は以前とは比較にならない。しかしそれを見つめる人間の力は、拡大しているだろうか。
 そして映像情報は使い捨てになっていないだろうか。

 自分のメモとしてしか使いようのない、自分の写真であるが、少しでも共感力のある、内容を感じられる写真を撮ってみたいと、皺のよった古い銀塩プリント(作品ではなく印刷原稿)を見て思ったのであった。
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